ふたごのにわ

サナの自宅は、サナが音楽で稼いだお金と、両親が出資したお金、そしてルナが出資したお金で建てた家だ。

ルナが何で稼いでいるのか、つばさは聞いたことがないが、一人暮らししながらこうしてサナの家で庭いじりをしている余裕が有るぐらいには、困っていないらしい。

「購入資金、半分は僕が出したんだからね! 庭ぐらい、好きにしてもいいじゃん」

また来たのかよとサナが口走ると、ルナはそう反論して庭木の剪定を始めた。

事の始まりは、サナが庭木の手入れをよく知らず、水を与えすぎてジャングルにしてしまった事が始まりらしかった。

サナの家はそれなりに自然に囲まれていて広さもあり、樹が家を囲うように、小さな小さな森を形成している。

それはまるで、ひと目に触れたくないサナを守るようだった。

そんな小さな世界の中、窓を開け放って部屋からルナを眺めていたサナがぼそりとつぶやくのを、つばさはキッチンから聞いた。

ルナが来ているときは、つばさはサナからちょっとだけ距離を置くようにしている。

この世界でサナは、なんだかんだ言いながらルナを信頼しているのがわかるから、姉弟、家族水入らず…とまではいかないが、他の家庭事情に足は踏み入れないようにしていた。

「……なんで人間は、花を有難がるのかしらね」

「……サナちゃんはありがたくないんだ?」

気だるげな声に、ルナはリズミカルな剪定の音を響かせながら返事をした。

サナは昨日新曲の制作を終えたばかりで、ちょっと脱力気味。

「すぐ散るものをもてはやして、散ったらもう見向きもしない。その上綺麗すぎるものには、いわくを付けてしまう」

窓枠にサナは頭を預ける。

ルナからの返事はなかった。

「散る予定のあるものを、愛でる事なんてできないわ」

「散る予定があるから、それまでに愛でるんだよ」

サナはそのまま黙って、目を閉じた。

徹夜だったので頭が働いていないのだ。こうゆう時に限って彼女は歌詞の熟考に入ったりするので、たまに意味が分からない、哲学的な話をする。

それについていけるのは、サナの周りではルナかコエだけだ。だから、サナはルナにそれを語る。

「サナちゃんはなんでもやっちゃいすぎて、全ての面倒を見ようとするから一番きれいな瞬間を見逃してるんだよ。だから庭も草だらけになるんだ、水を与える時と与えない時にメリハリをつけないと」

「私は貴方みたいに、取捨選択できる程、器用じゃない」

ルナはにこりと笑うと、座っていた脚立を降りた。

窓枠に寄りかかったまま目を瞑るサナのとなりに座る。

ちょうどつばさが入れたお茶を受け取った。サナは私はいいや、と首をふる。

「調度いいよ」

「君が咲かせたものを、僕が摘み取る。面倒事は、僕が刈り取る。その為に、僕はこの世界に生まれたんだからね」