大好きなんだよ
好き、という言葉を使うと語弊がある気がする。
最愛の相手は他に居て、その言葉を使うべき相手としてはお互い対象を違えている。そもそも向こうにとっては好き、それ自体が善い感情では無いらしい。
きょうだいとはいえ大人に近しい男女が軽々しく好意の表現に使える言葉でもなく、他に似たような言葉を探す。
窓から見えるその、歳の割には小柄な背を長めながら。
ようやく霜も降りなくなり、春が近づく季節。普段の通りルナが勝手に庭作業を買って出ている。隣町の賃貸に住むルナの家に庭はなく、室内にちょっと鉢植えがあるぐらい。ルナ曰く1番好きな作業が出来ないから……なんて言っていたが、そんな向上心で植え込みを動物の形にされてはたまったものでは無い。監視の目も光らせる。
やらないってば。
窓越しに見られていた事に気づいたルナの口がそう動く。首を横に振ってやれば困った顔が返って来た。
ルナが植物に、そして園芸に興味を持ったのはここに来てからだ。花なんか分からないと吐き捨てた事すらあるぐらい、非生産的なものには興味を示すような相手ではなかった。
如何やらそれを塗り替えた相手が居るようなのだが、彼にその「好き」も届く事は無かったらしい、とこの間つばさがそっと教えてくれた。予測はしていたがそうなったか、と答え合わせの中に安心と心配が混じった。
とはいえ、当の本人は今こうして、姉の庭を飾る事が幸せであるようなので手出しはしない。つくづく何かに世話を焼くのも醍醐味らしい。お陰でここ最近は、花が枯れることが怖くなくなった。自分の思い出と同じだ。失った事も種となって残るなら過程の一つ。
同じだ。失った記憶にすら手を伸ばしてくれたのと。何度突っぱねてもその手を伸ばしてくれたのと。さて、家で作って来たらしい苗をうちの花壇に植えるその手の温度を、やはり「好き」以外でどう形容すべきかわからない。
例え正しい言葉が見つかったとして、面と向かって言えるほど自分も強くない。
曲を作っていた手を止める。窓を開けて縁側から庭に降りる。陽射しも春風もすっかり心地よい温度だった。
「休憩?」
「行き詰まっちゃった」
肩をすくめながらにそう誤魔化して、植え揃えられた木々や花を眺める。綻びかけた花を見つけて少し口元が緩む。
その背後でルナが汗を拭うタオルに隠して、密かに笑っているのを知らないフリをする。
「好き」という単語が間違っている事は分かった。その代わりが見つからないことも。
じゃあ「大好き」の代わりは、もっと見つからないのだろう。
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