虹色記憶シリーズ episode 3 -ホワイトアウトに会いに行こう-
名前、さんご。年齢、ピチピチの20歳。実家は「~って言う名前の」なんて言わなくても大方の人が納得する正真正銘大企業の社長の家。いわゆる私はご令嬢。
家族、父、母、姉一人。
趣味、サブカルチャー、クールジャパン。
現状……『家出なう』。
「あー……どうしよっかなこれ……」
もっと具体的な現状を報告するならば、適当に詰めたキャリーバッグを片手に道端で途方に暮れている。目の前にはすやすやと転がる小さな女の子……?
おめでとう、私は道端で幼女を手に入れた!!
いやいや、めでたくねーよ。
***
「で、あんたも私にも帰る場所どころか寝る場所もないんだけど?」
とりあえず道端に落ちていた幼女を拾い上げ、そこらへんのカフェに飛び込んだ。行き倒れらしい水色のおかっぱ幼女は、エサを見て飛び起きる。話も聞いているのかいないのか、オムライスをものすごい速さで吸引している。
「問題ない」
彼女は無表情にもごもごと発するが、明らかに全てが問題だ。何をどう間違っても、私が拉致か連れ去りか、何かしらの事案で連れて行かれる未来の方が距離が近かった。
「何をどうすれば、よ」
「貴女は私が案内する場所へ付いて来るだけでいい。安心して欲しい。安全は保証する。」
「全くそうは思えないんだけど? っていうかそれ若干危険って事?」
目の前の幼女はケチャップに塗れた口で淡々とそう話した。どうやら私を待ち伏せしていたらしく、ついてきてほしいところがあるらしい。『安全は保証する』という言葉の方が危険に聞こえるのは何故だろう。そもそもこんなチビに何ができよう。100センチあるかないかのちびっ子だ。むしろ見た目には『よう喋れるな』といったところ。
「嫌に自信満々だね。君は頼りなさを自覚した方がいいよ……まー、人の事言えないけどさぁ」
私はそう嘆きながら、席のソファによりかかった。がらがらと歪んだ車輪を引いていたキャリーバッグには大した用意もなく、飛び出してきました感たっぷり。慌てて逃げ出したせいで荷物もぐちゃぐちゃだ。傍から見れば私も十分頼りないとしか言いようがない。
「……そろそろ時間」
幼女は盛大な音を立てて舐めていた皿を置くと、テーブルに膝をついて飛び乗った。つーか鼻にまでケチャップついてるし。
「わっ、やめなよ! 怒られるよ!」
「ほんの、数分で終わる」
そうして彼女が身を乗り出し、私のおでこをぺちんと叩くと、世界は暗転した。
***
■ CASE1 lion
「……っ、………えっ?」
眩しさに目を細め、額を手で覆う。足元には規則正しく並んだ赤レンガ、西洋風のモダンな町並みがそこにはあった。駅から流れ込んでくる人波が、ぼーっと突っ立っているだけの私達の脇を忙しなく通り過ぎる。
ロ―タリーになっている駅前の中央には、小さな公園。
ビル、駅、港と、遠くに望む草原の丘。
「な、何をしたのっ……?」
「心配ない、貴女の世界では3分も経過しない」
「ちゃんと説明して、あっ、ねえってば!!」
幼女は意味深な言葉を吐きながら、道路の向こう側にある公園の先へと駆け出した。もちろんほぼ引きこもり生活を送っていたオタクなお嬢様に、走って行く子供を活発に追いかける体力はない。
「っ、た……!」
縁石に躓いた。転びそうになり、思わず目を閉じる。
と、覚悟して硬直した身体は重力に逆らう。
「うわぁっ、と、君、大丈夫かい!?」
「ぎゃあああッ!」
その声に目を開ければ、30歳ぐらいのちょっと渋めの男性が、私を片腕で受け止めていた。まるで少女漫画かと見間違うその展開に驚いた私は思わずのけぞり、再度躓き、その勢いで私の身体がシュートした先は……彼が持っていた花束だった。
「ぎゃああああああああっ、ごめんなひぃ!!」
「……はっ……」
慌てて起き上がるが、花束はすでにごみ束と化していた。
怒 ら れ る !
きっと彼はデート中とかだったに違いない、この平和そうな街並みにはまるで似合わないほどに無駄に正装していたので、私はそう思った。
「ははははは、面白い方だね……大丈夫?」
しかし、頭の上から降ってきたのは笑い声だった。
「は……?」
ぽかんとする私を置き去りに、そうして彼はひとしきり抱腹した後、
「は。」
はっとした表情で、一音発して固まり。
「……俺、笑ってた?」
そう私に問いを投げかけた。
***
話を聞けば、彼は長年笑うことが出来なかったのだと言う。今日もそれをきっかけに通い出したものの、惰性で終わってしまうまま解決策も見出だせずじまいのカウンセリングの帰りで、正装と花束は亡くなった彼女の墓前へ捧げるものだったらしい。
「彼女はとても明るくて、前向きな女の子だった。……ただ、自傷行為をしていたんだ、出会った時から」
「……」
こんな話をこの場でしてもいいのだろうか、と目を泳がせる。彼は当然のように話すが、私としてはちょっと気まずい重めの話だ。あの幼女も探さなきゃいけない事を考えると、そう長く話に付き合ってもいられない。
でも、何故か私はこの人に一度会ったことがある気がした。もやもやとした違和感を拭いたくて、この人の話をもっと聞きたかった。
「当時、俺はなんというか、感情が表に出ないタイプでね……。実の兄の死の実感が沸かなかったんだ。それを気味悪がられて実家を追い出されて、俺らはあそこで出会った」
彼の指先が指す方向にあるのは、もう人気もない、蔦の絡まった建物。
「昔、あそこはアパート……って言うのかな。シェアハウスの方が近いかな……とにかく、集団生活をする為の建物だったんだ。変わり者の管理人が管理していて住む奴も皆変わり者だったらしい。俺と彼女を含む数人、俺らは確かにあそこに住んでいたんだ……ただ、皆記憶がない。その時の記憶だけがごっそりと、ね……。集団催眠なんじゃないかって疑われて、こうして何年も病院通いさ」
そういって肩をすくめて見せる彼には、もう感情も表情もある。
「私には、もう、貴方が何かしらの事情を抱えるようには、見えませんけど……」
「……俺は彼女が死んだ時悲しかった。だけど、なんとなく、「やっぱりな」って思ったんだ。言い方割るけど、ああいう子ってしょっちゅう、『死んでやる』とか言ってしまったりするだろ、彼女にはそれがなかったんだけど、やっぱり、地に足がついてない……ふわふわした感じの子だったんだ………そう思うのはおかしいかな、と自分でも思うんだけど、どうかな?」
私は首を激しく横に振った。
と、とたんに彼は立ち上がって手を振った。その先から駆けて来たのは、小さな男の子。男の子は彼の足に何も言わず抱きつくと、嬉しそうに飛び跳ねて感情表現をする。
「お子さん?」
駆け寄って来た男の子の頭を撫でる彼。やはり私には、彼が実家を追い出されるほど冷血な人物には見えなかった。
「いや、この子もあの場所にいた住人の一人だ。声がでないから、名前は分からない」
少年は拙く、ぺこりと頭を下げる。
「もう行くよ、こんな人間の話を聞いてくれてありがとう」
そう言うと、彼は少年を抱きかかえて頭を下げ、歩き出す。
「待って!」
私はカバンから掴めるだけのコインを掴み、去りかける彼の腕を鷲掴んでその手の中にコインを押し付けた。見た目だけならなんだか怪しい取引みたいなそれも、真剣になると意外と笑えない。
「あ、あのっ、弁償にならないかもしれないけど、私の分も含めて彼女さんに、お花、捧げてあげてください!」
「……いや、」
彼の口が受け取れない、と否定しかける。それでも無言で祈るように押し付けると、彼は笑ってそれを受け取ってくれた。
「ありがとう、彼女も喜ぶ」
そう言って彼は寂しげに笑って私と別れた。
私はその背を見送りながら、潰してしまった花束の事を思い出す。彼が持っていた花束は一風変わっていた。たんぽぽがぎっしりと詰め込まれた黄色い丸い花束は、少し老いが見えてきたすらっとした背丈の彼にはひどく似合わない。
***
「貴女は私に何を伝えたいの?」
彼が去った後、夕暮れ時の公園。伸びる影の先……ベンチの下から、探していた女の子が姿を見せた。
「…………」
とぼけたように、首を傾げる。それ以上、彼女は何も語らない。が、なんとなく分かってきた。
「この旅が終わったら、私の家出に決着が付くと思ってるでしょ」
「……そう」
彼女の、子供らしからない視線が私に刺さるよう。この子は何かを知っているらしい。私のことと、さっきの彼のこと。あの男の子と、亡くなった彼女さんのこと。その目を見ていると何故かそう確信して、私はそう彼女に呟いた。
「そう、貴女はこの旅の終わり、必ず家に戻る」
「……ふん、そううまくは行かないんだからね」
その言葉に何故か反抗心が枠。まるで私のほうが子供のように、私はそっぽを向いた。
■CASE2 rattus norvegicus
居場所。いる場所、座る場所。安心して暮らせる場所。
その場所が狭くて、崖っぷちで、そんな人達が歩み寄る場所がここにあった。
かつて、ここにあったと聞いた。
「う、うーん! ……はぁー、ダメだ、びくともしないわこれ」
私は彼から聞いた建物へと足を運んでいた。しかし、蔦の絡まった廃墟はドアすら開かない。ドアをガンガン蹴り飛ばしても動かず、やはりひきこもりのお嬢様にできる事は何もなかった。
「しかもまたあの小難しい幼女も消えたし、くそぉ……」
ちょっと愚痴を呟きながらも、あたりを見渡す。その廃墟の裏に、寂れたビルが一軒立っていた。地下がライブハウスになっているらしく、ズンズンと低重音が漏れだしている。
ここで働いている人なら、何か知っているのではないか?
ふとそう思い、重たいドアを開けてみた。ドアチャイムがからんころんと音を立てたが、それが音響にかき消されて、私が入ってきたことに気づく人はいない。ちらほらと数人が、のんびり呑む空間の真ん中、ステージの向こうで女の子がひとり、拙い歌を歌っていた。
しかしその歌を、誰も聞いている様子はない。ボブヘアでパーマ髪の女の子は、その光景に耐え切れなくなったのだろう。すぐに震えながらにステージを飛び降り、私の横を駈け出して外へ出て行ってしまった。
「ちょっ………ちょっと待って!」
慌てて追いかけると、すぐにあの子の姿を見つけた。あの廃墟をじっと見つめながら、涙を拭っている。
「こ、こんにちは……あの」
「…………」
女の子は小さく会釈をする。
「お、お客さん、初めてですか……? その、ステージに立ったのが私ですみません…。ある歌手に憧れて始めたけど……なんにも上手く行かなくて…。」
「う、ううん、入っちゃだめだったかな……? ええと、今私……調べ物をしていて、聞きたいことがあるんだけど、いい?」
失敗からか、完全に気が滅入っているらしい彼女の隣に座り、私は静かに問う。
「この廃墟の事をちょっと調べてるんだ」
「あっ、はぁ……」
さっきのたんぽぽの青年の話から始めると、彼女はあぁ。と声を上げた。どうやら知り合いとのことで、彼女も「集団催眠」のメンバーのようだ。
「彼が言ってた事は本当です。私も肝心なことは思い出せないんですけど、あの家に……皆が集まってたんです……誰かが、私達を集めて。でもその誰かが分からなくて。記憶と、彼と男の子と、何度か集まって話したこともあります。でもやっぱり誰もおぼえてないんです、その『誰か』……」
「誰か、か……」
よくわからないけど、どうやらそれが鍵らしい。なんだか心の奥がざわめく。
誰かが、彼女たちの居場所を作った。だけどその誰かは、彼女たちの目の前から消えた。不完全だけど、証拠を消したまま。
「他にそこで出会った知り合いはいる?」
彼女は首を振った。
「私は、いじめを受けてたんです。時には頭に火を付けられた事もあるほど酷いものでした。そんな時に、「誰か」が私を助けてくれて。私は何人かの仲間に出会いました。でも、覚えてるのは……それだけなんです、ごめんなさい」
彼女はそれだけ言って、またステージに戻っていった。どうしても気になってしまって『戻っても大丈夫?』と聞いてしまったが、彼女は「でも、やっぱり、今の私にはあのステージしか居場所がないから」と彼女は悲しく笑っただけだった。
……どうか、あのステージが『誰か』が与えきれなかった居場所に、彼女が笑っていられる場所になれますように。静かに私はその背に願った。
「……皆を、『誰か』が呼び寄せた……今、私がされてるみたいに……」
そうして私はまた一人に戻る。話を聞く内にすっかり日は落ちていた。それでも、先程の彼女の話でなんとなく整理はついてきて、確かめるように夜風にわざとらしく呟いた。
「さて、で、ここまで答えを出したけれど、貴女はどうしたいの?」
いつの間にか背後に湧き出た幼女の方を振り向く。幼女はゆっくりとこちらに歩み寄ると、小さく手を叩いた。
「貴方の推理力は、お見事」
「そりゃあどうも、伊達にマンガや本読んで鍛えた推理力じゃないでしょ?」
嫌味っぽくそのセリフを口にしてから、私はハッとした。彼女が言った、私が家出をやめるという推理が脳裏に過る。
「……そう、貴女が、貴女の趣味で培った能力は、素晴らしいもの」
「……それでもカッコ悪いものよ、それを誰かが認めてくれるとでも?」
肩をすくめる私に、幼女は初めて柔らかく笑った。その表情は恐らく『同意』だったのだろう。水色の髪が風もないのにふわりと浮いて、私はその顔に少しだけ見覚えを感じた。……いや、違う。見覚えが『出てきた』。
「……貴女自身……そして、その『誰か』が居る」
幼女は、また私の額に手を置いた。
***
■CASE3 名前も知らない花
「…………は、」
目を空けると、そこは何もない世界だった。ただ、ただ真っ白な世界が永遠に続く、悲しい希望の世界に見えた。ふと聞こえる小さな足音。後ろに気配を感じて、振り向く。
あの幼女に似た、明るい水色の髪、何処かこの世のものとは思えない、ぼんやりとした雰囲気の少女がそこにいた。ふわりと微笑むその姿は見慣れている何かより少し大人っぽい印象を与える。
……デジャヴ?いや、ちがう。私は彼女に会ったことがある。でもどこで? 思い出せない。
「さんご」
「……はい」
彼女が、私の名前を呼ぶ。聞いたことのある声。頭の奥で何かが警鐘を鳴らしているような気がする。思いだせ! 今思い出さなきゃ、後悔してしまう気がする。
「ごめんね、あなたたちをバラバラにするつもりはなかったの」
落ち着いた声は、まるで何かを諦めているようだ。何も知らないのになんだか悲しくなる。
「……貴女は、誰?」
気がつけばふと、私は口にしていた。一番知りたいことだ。しかし彼女は静かに首を振って、無理に微笑む。
「思い出せないなら、そのままでいいわ。ただ、聴いて。これは私のひとりごと」
薄紫のスカートと、頭の上のリボンが、まるでここに重力がないかのように、ふわりと浮く。酷く現実離れした光景に、私は頷くことしか出来ない。
「私は、私の我儘であなた達の居場所を無くしてしまった。あなた達の記憶を消して、居場所もリセットしたつもりだった」
この人の仕業だったのか、全ての違和感、皆の不思議な記憶の大本。なぜだか、今まで見てきた全てに合致が行った。皆を呼び集めたのも、別れさせたのも、こうして私がここにいるのも……全ては今、この眼の前に居る彼女のした事だと。
「だけど上手く行かなかった。遂には仲間が一人死んでしまう程に、ね……貴女をひとりにしてしまったのも、私の失態だった。私は謝りたかった。でも中途半端な記憶を持ったあなた達にいきなりは言えなかったから……貴女に謎を解かせた。あの子を使って……やっぱり、貴女の洞察力は凄かったわ。ありがとう、ごめんなさい。」
彼女はまるで、全て自分が悪いかのように事を弁解した。違う、絶対違う。この人は、悪くない。なんでそう思うのだろう。記憶を絞り出す。違う。仲間を壊したのはこの人だけじゃない。
「さようなら」
それだけ言うと、彼女は後ろを向いて、振り返ることも戸惑うこともなく歩き出した。本当に、それだけの話だった。彼女の姿が遠ざかり、あぁ、元の世界に戻されるんだと悟った瞬間。
「……さ、」
私は彼女の名前を思い出した。
「サナ!」
彼女は振り向く。その表情はもう読み取れないぐらい、白に埋もれていた。
「また、会えるの?」
彼女は静かに首を振った。
「もう、会えないわ」
彼女は、白い世界に溶けていった。
サナ、異世界から来た黒い羽根の天使。記憶を失った彼女がした事は、居場所のない子たちの居場所を作り……そして失った事だった。
***
「――お客様、閉店のお時間になりますが……」
「はっ」
カフェの店員に起こされて、私は顔を上げた。いつのまにやらテーブルに伏せて眠っていたらしい。
「うわわ、すいません」
慌てて伝票を手にしてレジに向かう。妙な夢をみた気がしたが、もうそれは思い出せなかった。曖昧な記憶を振り返るけれど、思い出せるのは妙な疲労感と根拠のない満足感だけだ。さてなんだったか、と思い出そうとすればするほどもう現実に塗りつぶされてしまう。きっと、大した夢ではなかったのだろう。
「コーヒー、パフェ、オムライス1点で1735円になります」
「……はい?」
ただ、食べた覚えのないオムライスの表記だけは、やたらリアルに財布に響いてきた。
お店を出ると、やけに綺麗な満月の夜。足元は明るく道を照らしていた。何故かふと振り返りたくなって振り返ってみる。けど、勿論一人で出てきたのだ、誰もついてきてはいない。
「さて」
片手にはただただ重いキャリーバッグ。変な姿勢で眠って痛む首。
それなのに何故か気分は、誰かに褒められたように軽くて。
でもちょっとだけ何かが寂しくて。
だけどなんだか誰かの為に頑張りたくて。
「帰るか……!」
今なら、理解者のいない冷たい家にも、立ち向かえる気がしたから。
***
「シュウメ、もういいのかい?」
「ええ、いいわ……ありがとう、アリウム」
アリウムの問いに、シュウメは素直に微笑んだ。
シュウメが白い世界に来る前、彼女には守ろうとした仲間がいた。アリウムと同じように。でも、アリウムとは違うように。
「本当は、皆にも、あの人にも謝るべきだったのだろうけど……もう、いいわ、気が済んだ。後はあの子がなんとかしてくれる」
「……そうか、謝れるだけ、君は幸せだ。」
アリウムは遠くを見つめて、小さく微笑む。彼女が守りたかった仲間は、もう彼女を恨むことしかできない。本当は綺麗な結末を迎えたシュウメが羨ましいのかもしれない。でも、彼女はそれを口にはしなかった。
「さ、行こうか」
「ええ、行きましょう」
二人は優しく手を繋ぐと、光の中に飛び込んだ。この先にあるのは、何もない世界。さようなら、私の愛した小さな、何もない、なんでもある世界。
こんにちは、天使なんて、存在しない世界――――
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